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「スコット・ピルグリム」第3巻発売&映画公開記念!

ブライアン・リー・オマリー
vs
相原コージ&竹熊健太郎

4/30 に遂に日本劇場公開される「スコット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団」。その原作である「スコット・ピルグリム」コミックシリーズも遂に完結されま す。記念に「スコット・ピルグリム」の原作者であるブライアン・リー・オマリー氏と、多大な影響を受けたと語っている「サルでも描ける漫画教室」の作者、 相原コージ先生と竹熊健太郎先生との対談を行いました。

(フィリップ クナル)

 


[クナル]
では、まず簡単な自己紹介から行きましょうか。

[オマリー] ブライアン・リー・オマリーです。32歳です。カナダ出身のコミック・アーティストで、「スコット・ピルグリム」の原作者です。

[竹熊]
 サルまんの作者の一人、竹熊健太郎です。お話できて光栄です。50歳です。

[相原]
 こんにちは。相原コージです。47歳、漫画家です。さるまんの作者の一人です。よろしく。

[クナル] ブライアン、サルまんとの出会いは?

[オマリー] アメリカで出版されたのは確か2002年頃です。
当時のルームメイトははコミックショップの経営者で、ある日持ってきました。そのときは僕が初作のLost at Seaを仕上げ、Scott Pilgrimの企画を考え始めていました。
ちょうどいい時に先生方の作品と出会ったわけです。第2章の「ワク線の引き方」を読み、自分でもそのことに困ったことがあって爆笑しました。 初めて漫画を通して漫画家の人生を見せつけられました。

[クナル] そのとき、自分のやりかた、またはアメリカの漫画家のやり方と違うと感じたことは?

[オマリー]  学生のころから、日本の漫画に魅力を感じました。ただしその頃(90年代後半)はまだまだ英訳されていた作品は少なかったんです。なので、「スコット・ピ ルグリム」で「少年漫画らしいこと」をやろうと思っても、実は「少年漫画」はほとんど読んだことありませんでした。当時読んだことがあったのはのは「らんま1/2」ぐらいです。
「サルまん」は冗談っぽく伝えているところが多かったのですが、本当に日本の漫画のガイドブック的存在になると感じました。
「サルまん」に取り上げられたさまざまな漫画のジャンルはすごくインスピレーションになりましたが、どこまでが冗談だったのかが少し気になります。
monkey manga

「サルまん」英訳版
”Even a Monkey
can draw Manga”

[竹熊] 「サルまん」は1989年の10月に小学館の「ビッグコミックスピリッツ」で連載を始めました。当時は日本で3番目くらいに売れていた週刊マンガ雑誌です。この時点で、日本には50年以上のストーリーマンガの歴史があり、1990年は産業的にも大変にメジャーでした。

[相原] すべてギャグとして描いています。日本漫画の定形をメタ的な視点でパロディ化して描いたのです。でも笑ってよんでいただいたようなので少し安心しました。

[竹熊]  この時期に僕と相原くんで「サルまん」を始めましたが、すでに爛熟期に入っていた日本のマンガは、表現よりもビジネスを追求する段階に入っていて、売れて はいたものの、僕や相原君が若い頃に読んでいたマンガに対する情熱や、スピリットを失いつつあるように感じていました。そこで、当時の売れているマンガの 「パターン」を抽出して、これのパロディをやりたいと考えたのです。

[オマリー] 2002年のころはアメリカでの漫画はまだビジネスになっていなかったと思います。なので、編集者は頭のいい作品をピックアップし、それを出すことがまだ可能だっ たと思います。「サルまん」と同じころ、松本太陽先生の「鉄コン筋クリート」古屋兎丸先生の作品を読んだ覚えがあります。

[オマリー] ここ20年ぐらい、漫画業界はますますビジネスを重視するようになったと感じます。今の新作漫画も好きですが、今の漫画はすごく洗練された感じで、絵柄も一人でできっこない物ばかりと思います。
少なくとも、僕は「20世紀少年」「DEATH NOTE」を描けるとはとても思えません。一方、70年代や80年代の作品はもっと手が届きそうな感じでした。 例えば高橋留美子先生の作品、あだち充先生の作品。

[竹熊]  日本では長い間、週刊マンガ誌が主流であり、毎週新作を描かなければならないので、ストーリーや構図に凝ったマンガは、編集者やアシスタントのサポートが なければ、とても連載できません。80年代に大友克洋が人気になってから、ますます凝った作画が主流になってきました。

[竹熊]  我々の「サルまん」は、当時のビジネス化しすぎて表現としてのピュアさを失ったかのような「メジャーマンガ」に対する皮肉が目的のひとつにあります。しか し、それを「スピリッツ誌」のような100万部を超えるメジャー誌で連載できたことは幸運なことでした。相原くんは「サルまん」以前の作品で、数十万部を超 える作家になっていたので、メジャー誌で「サルまん」を執筆することが可能になったのです。

[相原] ブライアンさんは一人だけでマンガを描いているのですか?

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「スコット・ピルグリム」
米版最終巻の表紙
[オマリー] 「スコット・ピルグリム」はほとんど一人で描きました。唯一、最終巻を描いたときはアシスタントを2人雇うことができました。かなり目立つと思います… 背景などのディテールが増えて。ただしファンにはあまり気づかれていないと言われます。

[相原] 画面の隅々までブライアンさんの美意識とタッチが感じられて好感が持てました。日本ではそういう描き方をする人は少数派です。

[オマリー]
 アメリカでは日本の漫画業界のようなシステムはありません。アメコミはストーリーを管理してくれる編集担当、アシ、月刊や週刊の漫画雑誌などはありません…僕はずっとそれに不満を抱えていました。

[竹熊]
 日本の作画スタイルとは違うので最初は戸惑いますが、元カレとの戦いが始まるあたりでコマ割りが日本のバトル物風になって、日本でもアメリカでもない不思議なムードの作品になりますね。

[オマリー]
 アメリカのコミック史の全てはMarvelDCのスーパーヒーローコミックでなりたってますからね。斬新なストーリーやアイデアはアングラとインディなコミックでしか出会えません。偏見かもしれませんが、僕はそう感じています。
僕は自分の作品で100万部もの売り上げとか、映画化とか想像もできませんでした。確率がものすごく低かったです。僕は1000部ぐらいの売り上げを想定していました。

[相原] 日本マンガの影響は随所に見られますが、かといって日本マンガにソックリなわけでもなく独自の表現になっているところが面白いとおもいました。

[相原]
 オリジナルな表現を模索しながら描いているのも好感がもてますし、あと、べた(黒)の使い方がうまいと思いました。

[竹熊]
  ところで「スコット・ピルグリム」についてですが、高校生の生活が日本とは違うので新鮮に思いました。主人公のスコットはオタクの青年なんだけど、ちゃん と恋愛もするしセックスもする。日本のオタク少年を主人公にしたラブコメディでは、主人公が複数の女性と同時に関係を持つ作品はほとんどありません。成人 向けのポルノコミックは別ですが。

[オマリー]
 僕はアメコミでもない漫画でもないハイブリッドが作りたかったんです。自分にできる出発点、そこから日本の漫画に手を伸ばしました。

[竹熊]  さきほどの補足です。日本ではラブコメの一分野で「ハーレム物」と呼ばれる作品群があります。内気なオタク青年に、なぜかアニメ風の美女が、こちらからア プローチもしないのに一方的に告白してきて、ハーレムになるというオタクの願望をテーマにした作品です。スコット・ピルグリムはオタクっぽいけどちゃんと 主体性があって、音楽もするし女性と付き合うしかなり積極的ですね。日本ぽい設定があるけど、恋愛の書き方は日本ではなかなか見かけない展開ですね。

[オマリー]
  学生の頃、日本の漫画のスタイルを一生懸命コピーしまくって、ほとんど自分の考えを生かしませんでした。少しずつ、日本の漫画家にも色々な表現を使う方が いることに気がつき、少しずつ深入りしました。勿論、僕は日本人ではないので日本人と同じ表現はできないと思いますが、できるだけ多く勉強したいと思っ て。僕はまだまだ漫画から学ぶことが沢山あると思います。

[竹熊]
  コミックでも映画でも、スコットはせっかく可愛い中国人の彼女がアプローチして来るのに、ラモーナに出会った瞬間ナイヴス・チャウをあっさり振ってしまう でしょう。あの展開、日本だったら編集者がチェックして描かせないと思うんですよ。ナイヴスがかわいそうだ、スコットはひどい男に見えると言って。

[オマリー] 先日別のインタービューでもスコットのオタクさについて、確か「童貞」と言ってた、そういう質問されたのですが、すごく面白いと思いました。この文化の違いには今まで全然気がつきませんでした。
スコット・ピルグリムにも勿論「ハーレムもの」の影響はあります。「らんま1/2」もそうですよね。スコットはそういうストーリーにあまりいなさそうなタイプですね。
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振られたナイブスが反撃に出る。

[相原] ブライアンさんのあの独特のタッチは何を使って描いているのですか?筆ですか?

[オマリー]
  ほとんどは筆で仕上げています。日本での呼び方が違うかもしれませんが#2と#3ブラッシュ(筆)というものを使っています。あと、スクリーントーンはほ とんどパソコンですね。アメリカではあまり売っていないからです。今頃の日本人漫画家はまだ本物のトーンを貼ってますか?それともパソコンで入れてます か?

[竹熊]
 最近は日本でも若いマンガ家をz心にコンピューターで仕上げをしています。「サルまん」はオール・アナログでしたが。僕も相原くんもPCを持っていませんでした。連載終了後、僕はPCを買いました。

[相原]
 私はアナログな人間なのでいまだにトーンをしこしこ手ではってますが、トーン処理をパソコンでやる人はどんどん増えてます。それどころかマンガすべてをパソコン上で描き編集者にデータをメールで送信するだけの人も増えてます。

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オマリー氏が憧れた
「アナログ漫画家」の商売道具(?)
(「サルまん」より)

[オマリー] 時々日本の漫画の主人公にすごくフラストレーションを感じます。主人公はほとんどの場 合、シャイで臆病者じゃないですか。僕自身もかなりシャイです(ほとんどの漫画家はそうじゃないですかね)、でもアメリカでは主人公はヒーローなので、行 動的なほうが好まれます。恋愛に関しても。
ストーリの入り方について、僕は同じようなパターンが多いような気がします。ただ、「スコット・ピルグリム」は最初から160ページもある本として出版さ れていますので、「第一回」で読者はナイブスと出会い、ラモーナと出会います。メディアが週刊誌だったら、ナイブスを振るシーンがもっと納得されにくかっ たんでしょうね。週刊誌の場合、各章の間に時間が空き、読者はこれからの話を想像してキャラに入り込むので。

[オマリー] アメリカではは製作プロセスが少し違うかもしれませんが、出版元に本物の原画を渡したことはないと思います!かなり離れた場所(トロントは東海岸、オニ・プレスは西海岸のオレゴン州)にあることも関係してますが。

[竹熊]
  ナイブスが振られるのに、スコットの側に理由が「特にない」でしょう。まあ、恋愛に理屈はありませんが、日本の漫画雑誌だったら、ナイブスに振られても仕 方がない「理由」をつけろと、編集者が要求してくると思います。たとえば、ナイブスには可愛い側面とと、とても嫌な性格の面があって、それをスコットとと もに読者も知る展開を用意するとか。そういう段取りがないので、一瞬「あれ?」と思いましたが、新鮮な展開でもありました。

[相原] 日本のマンガ雑誌に連載をしてみたいとおもいますか?

[オマリー]
  日本の週刊誌・月刊誌の漫画の作り方にはとても興味を持っています。いつか機会があれば、是非そうやって編集者と漫画を作ってみたいとは思っています。 さっきも言いましたが、アメリカではそういうシステムは存在しないので。「スコット・ピルグリム」に編集者がついていなかったです。長くなり、ストーリー も複雑になる度、編集者がいたらなと時々思いました。いたらきっともっとよくできた漫画になっていました。

[竹熊]
  ぜひ一度、お会いしたいですね。「サルまん」のオリジナルは3巻ある作品で、今出ている愛蔵版は2巻にまとめられています。アメリカで出ている. "Even a Monkey Can Draw Manga" は、日本版の1巻の3分の2くらいのエピソードで編集されています。ぜひ、完全版をアメリカやカナダの人に読んで欲しいです。

[オマリー]
 いつか日本にいってみたいです。僕の作品が日本語で出版されるなんて、本当に光栄です。

[竹熊]
 今の日本は地震と津波と原発メルトダウンで大混乱していますので、とりあえずこちらからアメリカに行きますよ。

[相原]
 今日はお話しできてよかったです。ありがとうございました。

[オマリー]
 先生方ありがとうございました。お話ができて光栄です。

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